山の恵み、山椒筍の味わい便り

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山の香に心を澄ます——筍の山椒煮

春の声を聞きながら、台所に立っていると、ふと手に取った筍がやわらかな陽射しに透けて、まるで地中から伸びてきた命のしずくのように感じられました。そんな旬の筍を、山椒とともに炊き上げる——それが「筍の山椒煮」です。

この料理は、驚くほどシンプルでありながら、春の香りと山の恵みを存分に味わえる一品。やわらかく煮含めた筍に、ぴりりと効いた実山椒のアクセントが加わると、ひと口ごとに大地の息吹が広がるような感覚になります。禅寺ではこうした旬のものを丁寧に調理し、五感を通して季節と向き合う時間を大切にしてきました。

精進料理という枠組みの中で、筍のような食材は、強い味つけや油を使わずとも、そのものが持つ香りと食感だけで、心と身体にしみ渡る滋味をもたらしてくれます。山椒もまた、薬効が高く、身体を目覚めさせるような働きがあります。自然の力にそっと寄り添うような料理です。


レシピ:筍の山椒煮

〈材料(2〜3人分)〉
・筍(茹でたもの)…150〜200g
・実山椒(下処理済み)…大さじ1
・だし汁…200ml(昆布だしがおすすめ)
・薄口醤油…大さじ1〜1.5
・みりん…大さじ1
・酒…大さじ1
・(お好みで)青みの葉(今回は蕪の葉の漬物)…少々

〈作り方〉

  1. 筍は食べやすい大きさに薄く切る。
  2. 鍋にだし汁、酒、みりん、醤油を入れて火にかけ、沸騰したら筍を加える。
  3. 中火で10〜15分ほど、味がしみるまで煮る。
  4. 実山椒を加えて、さらに3〜5分ほど煮る。
  5. 火を止めてそのまま冷ますと、味がより馴染みます。
  6. 器に盛りつけ、お好みで青み(木の芽や三つ葉など)を添える。

筍の持つ淡い香りは、まるで春の朝靄のよう。そこに加わる山椒の清涼感が、心にそっと風を通してくれるようです。自然の恵みをそのままいただくこの料理は、素材との対話の中で自分の心の状態にも気づかされます。煮汁の減り具合を見ながら、五感を研ぎ澄ませていく調理の時間もまた、禅の修行のようなものです。

「煮る」という行為は、「待つ」ことでもあります。火を強めれば早くは煮えますが、味は染みません。弱火で、静かに。心を落ち着けて、湯気のたちのぼる様子を眺めながら、ひとつのことに集中する——この感覚こそが、坐禅と通じているのかもしれません。


まとめ

筍の山椒煮は、春という季節の移ろいと、山の恵みをまっすぐに味わうことのできる精進料理です。その一椀には、禅の教えである「あるがまま」を大切にする心、「いまここ」に意識を向ける静かなまなざしが宿っています。

私たちの日常はつい、速さや効率にとらわれがちですが、この料理はそれとは真逆の在り方を教えてくれます。じっくり煮る、味わう、そして心を静める。そんな一連の流れの中に、自然とともにある暮らしの美しさが見えてきます。

春の食卓に、静かな心を添えて——。筍の山椒煮は、そんな優しい時間を運んでくれるのです。

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