不揃い人参の禅味ラペ

「多色即一味」——不揃い人参の禅味ラペ

スーパーで見つけたお勤め品の形色が不揃いの人参たち。
ひと目見て、思わず心がほどけました。色とりどりの細切り野菜が、小さな器の中で軽やかに交差し、まるで草原を吹き抜ける風のよう。今回の料理は「カラフル人参のラペ」。しかも、使われているのはすべて“人参”。けれどその姿はまるで、異なる個性が集まってひとつの調和を奏でているかのようです。

赤、橙、黄色、白みがかったもの——それぞれ色もかたちも少しずつ違い、まさに「不揃い」。しかし、その不揃いが逆に美しさをつくり出しているのが印象的です。見た目はラペという洋風の装いながら、素材を尊び、余計を削ぐ姿勢は精進のこころとぴったり重なります。
料理に手を添えた方の、静かで丁寧な眼差しが浮かんでくるような一皿です。

【レシピ】

〈材料（2人分）〉
・カラフル人参（赤・黄・橙など）計４本
・塩　少々
・米酢　大さじ1
・てんさい糖　小さじ1/2
・太白ごま油（またはオリーブオイル）　小さじ1

〈作り方〉

人参は皮をむき、できるだけ細く千切りにします。不揃いでかまいません。
ボウルに入れ、塩を加えて軽くもみ、10分ほどおいてしんなりさせます。
水気を軽く絞り、米酢・てんさい糖・油を加えて和えます。
全体がよく馴染んだら、器にふんわりと盛りつけて完成です。

冷蔵庫で少し寝かせると味がまとまり、より美味しくいただけます。

すべて「人参」という同じ素材でありながら、色も風味も微妙に異なるこの一皿。そこには、“同じものの中にある多様性”という、禅にも通じる深い気づきがあります。たとえば黄人参は甘く、赤い人参はほんのりとした渋みを持ち、橙の人参は王道の滋味。刻むとき、ひとつひとつの硬さや香りが異なることに気づくと、私たちは「野菜のいのちの違い」に自然と手を合わせたくなります。

形をそろえなくてもいい。むしろ不揃いであることが、美しい。これは、日々を生きる私たちにも重なるように思うのです。完璧でなくていい。整いすぎなくても、心がこもっていれば、それは立派なひと皿になる。そう教えてくれているようです。

禅語に「和敬清寂（わけいせいじゃく）」という言葉があります。和し、敬い、清らかにして、寂（しずか）であること——茶の湯にも通じるこの精神は、まさにこのラペにも息づいています。

人参たちが互いを引き立て合い、調味料はただ静かにその橋渡しをしている。派手さはなくとも、ひと口ごとに素材の真実が舌に届きます。そしてそれは、忙しない日常の中にふと差し込む静けさのように、私たちの心をほぐしてくれるのです。

料理という行いは、何かを「足す」ことでなく、「見極める」こと。今回のように、不揃いな素材をそのまま活かすことで、自然に寄り添い、あるがままを受け入れるという禅の眼差しを、私たちはふと手の中に感じ取ることができます。

静かな時間に、ひとり静かに刻み、和える。その行為が、やがて心を整える坐禅のようなひとときになるかもしれません。